風雲☆永田町

「政治という仕事は、情熱と判断力の両方を使いながら、堅い板に力をこめて、ゆっくりと穴を開けていく仕事だ」(マックス・ウェーバー)

ベールを脱いだ無派閥菅G、情報・ポストで勢力拡大

 安倍晋三首相の辞任表明に伴う自民党総裁選は、始まる前から菅義偉官房長官がトップを独走し、岸田文雄政調会長石破茂元幹事長の2位争いという構図だ。そんな中、これまで存在は知られていたが当人たちはひた隠していた菅氏に近い無派閥議員のグループが集団で菅氏に出馬要請して記者会見し、ベールを脱いだ。
 8月31日は衆院議員若手有志15人の「ガネーシャの会」、今月1日は参院有志11人の名もないグループだ。資料として、それぞれ敬称略でメンバーを挙げる(〇は代表的存在)
 【ガネーシャの会】〇坂井学田中良生牧原秀樹山本朋広秋本真利大串正樹黄川田仁志熊田裕通武村展英、田中英之、藤井比早之星野剛士三谷英弘、木村哲也、穂坂泰
 【参院】〇島村大、安達雅志、園田修光柘植芳文松下新平三原じゅん子三宅伸吾和田政宗朝日健太郎小川克巳徳茂雅之
 永田町内では無名が多く、選挙区でもない限り聞き覚えのない名前ばかりではないだろうか。菅氏が、情報や政府や党のポスト、選挙応援などで面倒をみている無派閥の議員たちだ。
 坂井氏は8月31日、ガネーシャの会の特徴について「共通点は無派閥で、世襲ではないということだ」と述べた。菅氏も無派閥・非世襲だけに、坂井氏は「まさに菅長官は希望の星で、頑張れば働けるという思いを新たにできるかただ」と持ち上げた。
 ガネーシャの会は無派閥の当選4回以下の議員の会だ。もともとは「偉駄天の会」(韋駄天という神の「韋」を(菅義)「偉」と入れ替えた)という菅氏に近いグループがあり、「韋駄天」の兄弟神「歓喜天」の別名「ガネーシャ」からからとった。2018年前後から活動しているというが「秘密結社だ」(メンバー)として表立っての活動は控えてきた。
 参院有志は、島村氏らが初当選した13年ごろに発足した。三原氏は1日の記者会見で「菅長官がいてくださるところに自然に集まっちゃった」と笑顔で語った。
 菅原一秀梶山弘志の新旧経済産業相も菅Gといえ、菅原氏らによる「令和の会」というのもあり、菅Gの総勢は30~40人とされている。常に派閥化がささやかれているが、菅氏は否定的だ。若手たちには、菅原氏らが「先輩風」を吹かせることへの不満もある。
 このタイミングで表に出てきたことについて、とある議員はこう語る。
 「事実上の菅派であり、菅氏の党内の足場といえる。官房長官というポストの影響力もあって集まってきたメンバーだが、菅氏が首相・党総裁になれば、選挙区での公認が欲しい議員など、数が増えるのではないか」

 

「令和太閤」の誕生 「ポスト安倍」菅義偉官房長官に雪崩

 安倍晋三首相が8月28日に辞任を表明し、後任の自民党総裁を選ぶ「ポスト安倍」政局となった。安倍政権の7年8カ月を女房役として支えてきた菅義偉官房長官が大本命となっている。ベテラン記者の話。
 「表向きは安倍政権の新型コロナウイルス対策の継続だが、主流派の権力維持の意味合いが強い。特に続投を目指す二階俊博幹事長が森山裕国対委員長と組んでいち早く支持を訴え、麻生派細田派も菅氏支持で乗り、流れは決まった」
 今回の総裁選は「特に緊急を要する」として党大会に代わる両院議員総会で行われる方向だ。党所属国会議員が1票ずつの394票、都道府県連の代表3票ずつの141票、計535票で決まる。細田派(98人)、麻生派(54人)、二階派(47人)、石原派(11人)無派閥の菅グループ約30人は菅氏を支持し、竹下派(54人)が出遅れている。
 菅氏は秋田県の農家出身。高校を卒業後、集団就職で上京し段ボール工場に勤務した。働きながら法政大学の夜間部で学び、小此木彦三郎衆院議員秘書横浜市議を経て1996年の衆院選で初当選し、現在8期目。官房長官として新元号令和を発表したことから「令和おじさん」として知名度がある。田中角栄元首相は「今太閤」といわれたが、菅氏は「令和太閤」ともいえる経歴だ。
 なぜ、菅氏に雪崩を打ったのか。二階派所属議員が解説した。
 「首相は6月に人間ドックを受け、7月から体調が悪化した。時期を一にして、菅氏がテレビに出まくり露出が増え、首相が雑誌で後継として『菅氏もありうる』。と言い出した。明らかに菅首相への地ならしだった。首相の意中の後継者は菅氏だと敏感に察知し、動いた。議員秘書和歌山県議を経た二階氏は同じたたき上げの菅氏にシンパシーがあるというが、それは口実だ」
 割を食ったのが、岸田文雄政調会長だ。首相の「禅譲」や首相の盟友である麻生太郎副総理兼財務相の支援期待していた。しかし、首相が辞意を固めた8月28日に新潟に出張する「政局音痴」を露呈。8月31日にも総裁選での支援を要請したが、首相は「個人名はいえない」と拒否した。首相周辺は話す。
 「首相は長年仕えてくれた菅氏に恩義を感じている。岸田氏は首相や麻生氏と不倶戴天の間柄にある古賀誠元幹事長の影響下にあるのもネックだ。来年にも総裁選がある。今回は石破茂元幹事長を上回って2位に入り、政治生命をつないでもらいたい」