風雲☆永田町

「政治という仕事は、情熱と判断力の両方を使いながら、堅い板に力をこめて、ゆっくりと穴を開けていく仕事だ」(マックス・ウェーバー)

鉄壁のガースーの心を折ったのは誰か

 9月2日夕、菅義偉首相は官邸の執務室で腹心の萩生田光一文部科学相と会談した。衆院選を間近に控え、自民党内の若手議員の間では「首相では戦えない」との声が高まり、岸田文雄元外相が総裁選に名乗りを上げていた。
 菅首相「岸田って、そんなに人気があるのか」
 萩生田氏「何を言っているんですか。総理以外だったら誰でもいい、という空気ですよ」
 菅首相「ひでぇこと言うな」
 菅首相は笑みを浮かべたが、すぐに沈んだ表情に変わった。翌3日、菅氏は党役員会で総裁選への不出馬を表明し、菅政権の退陣が固まった。周囲には「戦う気力がなくなった」と語った。菅氏の真理子夫人も退陣を勧めていたという。

 菅首相は2日までは続投する気満々だった。まず、佐藤勉総務会長の奇策に飛びついた。恩人である二階俊博幹事長を交代させたうえで、自民党総裁選を先送りしての衆院解散を行うという案だ。しかし、これは二階氏や安倍晋三前首相、麻生太郎副総理兼財務相の反対により頓挫した。結果として菅首相は「仲間を殺してでも権力に執着する権力の亡者」という評判が一気に広がった。それでも「二階切り」は断行しようとした。しかし、二階氏は首相から二階氏側近の林幹雄幹事長代理の選対委員長就任を打診されたが断った。首相は人事を行う余力もなくなった。

 この間、首相に退陣を迫っていたのが、首相子飼いの小泉進次郎環境相だ。「総裁選に突っ込んでもいいが、ボロボロになる。首相が行ってきたワクチンやカーボンニュートラル、デジタル庁も評価されなくなる」と口説いた。北風と太陽の寓話を思い出す。若手が北風よろしく「首相では戦えない」と声をぶつけ、進次郎氏が太陽のようになだめすかして退陣に追い込んだのだ。若手と進次郎氏は赤坂宿舎などで綿密に連携していた。

 首相は自ら墓穴を掘ったといえるが、心を折ったのは側近の閣僚、若手、二階氏だった。

「菅に菅なし」に懸念拡大 山田内閣広報官辞任劇でみえた人切り役の不在

 菅義偉首相の長男、正剛(せいごう)氏が務める映像会社「東北新社」から接待を受けていた山田真貴子内閣広報官が1日、体調不良による入院加療を理由に辞任した。東北新社から一晩で7万4千円超の接待を受けていた。

 首相は先週26日の段階で、女性の内閣広報官ということもあって続投させる意向を表明していたが、週明けに辞任に追い込まれた。首相官邸で何が起きていたのか。

 自民党内の空気は、続投論と辞任論が半々だった。続投論はこんな感じだ。

 「山田氏が辞任すれば、総務省幹部の首をこぞって切らないといけない。特に放送行政がガタガタになる。大蔵省のノーパンしゃぶしゃぶ事件の際もそこまでせず、武藤敏郎事務次官ら、残したことで後に活躍した人もいた」

 政府側の理論である。辞任論はこうだった。

 「26日には新型コロナウイルスの緊急事態宣言の一部地域解除について首相による記者会見がある予定だった。内閣広報官は司会をする。山田氏が司会をすれば、接待問題を首相と山田氏に交互に聞くことになる。そんなみっともない会見にはできない」

 しかして26日、首相は記者会見を見送り、首相官邸のエントランスで立ったまま記者団による囲み取材を受けることになった。ここで18分間、若い総理番に矢継ぎ早に質問され「政府として答えるべきではない」「同じような質問ばかり」と激高し、週末のテレビで繰り返し映像が流れた。

 自民党中堅議員は「誰かが質問を切らなければならなかった。官邸の危機管理の失敗だ」と嘆いた。内閣広報官としては首相にあんな姿をさらさせて続投させることはできない。山田氏は身を引くことになった。

 一方、そもそも菅首相が山田氏を続投させる意向だったかは懐疑的だ。記者会見を見送ることで山田氏に自発的辞任を促したのではないか。

 安倍政権時代は、安倍晋三前首相は一度も閣僚の首を斬ったことがない。官房長官だった菅首相や今井尚哉前首相秘書官が該当者に辞任を促したりNHKに速報を流させて辞任を自覚させたりしていた。菅政権にはこの役割を果たせる人がいない。役人気質といわれる加藤勝信官房長官には望むべくもない。

 安倍氏には菅首相と言う人斬り役がいた。汚れ役と言い換えてもよい。菅首相にはそうした人物がいない。

 「菅に菅なし」が、政権に重くのしかかっているのだ。

白須賀貴樹衆院議員、かねてから素行に疑問符 緊急事態宣言下、深夜のラウンジ通いで自民党を離党

 白須賀貴樹衆院議員が17日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言下の東京都内で深夜に会員制高級ラウンジに女性を伴い滞在したことが判明し、自民党を離党した。次期衆院選への不出馬を表明したが、議員辞職は否定した。

 白須賀氏は記者団には「本当に大変軽率な行動をした。お店の人に泣きつかれてしまい、売上の足しになればと思った」と述べ、深々と頭を下げた。

 白須賀氏がラウンジに行ったのは10日。夜に銀座のクラブに行ったとして松本純大塚高司田野瀬太道の3衆院議員が自民党を離党したのは1日だと考えると、弁解の余地はない。

 白須賀氏は2012年の衆院選で初当選した3期生だ。細田派所属している。同期は不祥事に枚挙にいとまがないことから、「魔の3回生」と呼ばれている。「ゲス不倫」で議員辞職した宮崎謙介氏、「路チュー」の門博文氏、「おんぶ」の務台俊介氏、秘書へのパワハラで離党した石崎徹氏らがいる。

 なかでも白須賀氏は筆頭格といわれていた。飲み歩いている4人の議員の頭文字をとって「KISS」といわれていたものだ。ちなみに、白須賀氏が離党し、自民党に残っている現職議員はS氏ひとりである。酒を飲むと態度が大きくなり、今は閣僚をしている先輩議員の胸倉をつかんだことも目撃されている。

 下村博文政調会長は17日の記者会見で笑いながら「属人的と言えば属人的…」と本音を吐露してしまったほど、白須賀氏の評判は広がっていた。過去には、内閣府政務官で在京当番でありながら都から離れたことや、秘書が運転し自身が乗っている車が人身事故を起こしたのに警察に届け出なかったことも問題視された。白須賀氏から別の人物に選挙区での候補者差し替えてほしいと地元が党本部に求めたこともある。

 自民党ベテラン議員は「こうした議員を差し替えられないことが、小選挙区制の限界だ」と話す。1選挙区に1人が当選する小選挙区制度では、政党の公認を得られればめったに降ろされず、新陳代謝が起きない。1選挙区で複数が当選する中選挙区制の時代は、派閥がしのぎを削り緊張感があった。しかも「魔の3回生」は安倍晋三総裁のもと、自民党に風が吹いた楽な選挙しか経験していない。慢性的に緩んでいるのである。

 自民党の立て直しは容易でないといえそうだ。

福島・宮城自身の自民党役員会に二階俊博幹事長が欠席 体調不良説も浮上

 福島、宮城両県で最大震度6強を観測した13日深夜の地震を受け、自民党は14日午前11時に緊急の役員会をセットした。党三役も集まるはずだったが、時間になっても二階俊博幹事長が来ない。二階氏が到着次第の開始とアナウンスされたが、結局、二階氏は現れず、野田聖子幹事長代行が司会をした。

 二階氏といえば、防災・減災を中心とする「国土強靭化」を主導した人物で、災害には誰よりも敏感に反応してきた。「すぐやる課」を掲げ、北海道や熊本の大雨、糸魚川の火災に際していち早く党の会議を開き、政府に支援を求めた。ベテラン秘書の話。

 「国連で11月5日の『世界津波の日』を制定するため、政府や自身に近い議員を動かしてきたのも二階氏だ。 これは、1854年11月5日、和歌山県で起きた大津波の際に、濱口梧陵という人物が自分が収穫した稲村に火をつけて住民に危機を知らせ、避難させて命を救った「稲村の火」という逸話にちなんでいる。それほど「防災」には思い入れが強いはずなのだ」

 しかし、二階氏は14日の役員会は欠席した。党幹部らが何度も二階氏に電話したが、出なかったという。これを受け「二階氏が倒れているのでは」という憶測も広がった。結局、その後に側近議員が電話し、二階氏は応答したという。

 現在81歳の二階氏。「冴えているときと冴えていないときの差が大きすぎる」との評判も聞こえてくる。

森喜朗東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会会長の失言 批判は「木を見て森を見ず」の様相

 東京五輪パラリンピック組織委員会森喜朗会長が女性蔑視の発言をしたとして、世界中から批判を浴びている。批判の的となっている3日の森氏の発言はこうだ。

 「女性理事を4割というのは文科省がうるさくいうんですね。だけど女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」

「女性っていうのは優れているところですが競争意識が強い。誰か1人が手を挙げると、自分も言わなきゃいけないと思うんでしょうね、それでみんな発言されるんです。結局女性っていうのはそういう、あまりいうと新聞に悪口かかれる、俺がまた悪口言ったとなるけど、女性を必ずしも増やしていく場合は、発言の時間をある程度規制をしておかないとなかなか終わらないから困ると言っていて、誰が言ったかは言いませんけど、そんなこともあります」

 「私どもの組織委員会にも、女性は何人いますか、7人くらいおられますが、みんなわきまえておられます」

 主に「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」「発言の時間をある程度規制しないとなかなか終わらない」「わきまえている」が女性蔑視と批判された。

 翌4日の謝罪会見にも批判が殺到した。森氏は「深く反省をしている。発言をいたした件については撤回をしたい。不愉快な思いをしたみなさまについてはお詫び申し上げたい」と謝罪したが、TBSラジオの澤田大樹記者に「適任か。私は適任と思わない」などと追及され、「承っておく。おもしろおかしくしたいから聞いているんだろ」と逆切れしてしまった。

 世間は「辞めろ」の大合唱だ。女性蔑視的な発言は、日本国内よりも海外が反応する。「人権」や「ポリコレ」の意識が極めて高いからだとおもわれる。海外メディアによる批判が日本国内に逆輸入されて、ますます炎上する構図である。

 一方、政界は「余人を持って代えがたい」(世耕弘成自民党参院幹事長)などと発言。五輪招致に尽力した安倍晋三前首相も「森さんを辞めさせるはずがない。それは五輪を辞めさせたい勢力の陰謀だ」と周囲に話している。菅義偉首相は「国益にとって芳しくない」と半身だが、誰も辞任させるパワーも熱量も持たない。小池百合子東京都知事ですら、世論に迎合した首切りパフォーマンスに打って出ない。

 それはなぜか。ベテラン記者が語る。

 「森氏が五輪に向けて大きな貢献をしてきたからだ。競技団体や各国との調整、スポンサー企業からのカネ集めなど、森氏でなければできなかった仕事は枚挙にいとまがない。その姿をみていれば辞めろなどとはいえない。批判はまさに『木を見て森を見ず』だ」

 ただ、森氏は2月2日の自民党で五輪の最大の問題は「世論だ」と明言し、国内で五輪開催の支持が高まらないことを嘆いて見せた。自らが足を引っ張ることになり、その胸中いかばかりか。

 

夜の銀座政局 写真週刊誌が野党幹部撮影との噂 お家芸のブーメラン炸裂か

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けた政府による緊急事態宣言のさなかの1月18日の深夜に、銀座の高級クラブに行っていたとして、自民党松本純大塚高司田野瀬太道の3衆院議員が離党した。次の衆院選では党の公認は受けられず、400~500万円とされる公認料も受け取れなくなった。

 菅義偉首相、内閣は、すでに「上級国民」との批判を受けており、この事実関係が直撃する。また、河井案里参院議員も3日に議員辞職するといい、大打撃だ。

 やれ、4月25日には衆院北海道2区、参院長野選挙区に加え参院広島選挙区の3つの補欠選挙が投開票となり、これは次期衆院選の前哨戦として大いに注目を集めることになる。自民党は北海道2区は候補者を立てず不戦敗、参院長野は立憲民主党が強いので負け確。広島は自民党が強いが、逆風を受けて敗れればかなりきつい。

 ここへきて、与党側が一縷の望みをかけているのが、5日金曜発売の写真週刊誌報道という。「立憲民主党幹部のAとFとRが国会近くのホテルで会食していた」との情報だ。立憲は所属議員に対し緊急事態宣言下での会食自粛要請をしておりまさにお家芸のブーメランが直撃することになる。そういえば、立憲幹部による銀座組への追及は緩い。

 とはいえ、写真週刊誌がその会食を報じるという保証はない。永田町では発売日前日に「早刷り」が出回るので、4日の動きには要注目だ。

コロナを利用した倒閣運動 小池百合子都知事が政府に緊急事態宣言「要請」

 菅義偉政権が新型コロナウイルスの感染拡大に苦しんでいる。東京都が昨年12月31日、大晦日に合わせたかのように1日の新規感染者数「100超え」を発表し、年が明け1月2日に西村康稔経済再生担当相を訪ね、緊急事態宣言を出すよう要請した。自民党中堅議員が言う。
 「政局的な動きだ。コロナを利用した倒閣運動ともいえる。政府は都などに飲食店に対し午後8時までの時短営業を要請するよう求めたが小池氏は蹴った。それなのに、緊急事態宣言を出せという。責任は取りたくない、政府の印象を悪くしたい、というパフォーマンスだ」
 都はやるべきことをやる前に、政府に責任転嫁しているという解説である。当初、小池氏と埼玉県の大野元裕知事だけが西村氏を訪れるはずだった。このとき、緊急事態宣言を発令するか問われた政府高官は「そういう流れではない。神奈川県の黒岩祐治知事、千葉県の森田健作知事がいないことをよく考えてほしい」と語っていた。
 大野氏は元民主党参院議員だ。黒岩、森田両氏は首相に近い。野党系知事によるパフォーマンスとの位置づけだった。しかしその後、黒岩、森田両氏も小池氏に同行した。政府関係者が説明する。
 「2日の時点で首相は緊急事態宣言を迷っていた。まずは飲食店の時短営業の言質を取るよう西村氏に支持した。いわば、時短営業を緊急事態宣言の前提にしようとした。バーターと言い換えてもよい。その見通しが立ったので、黒岩、森田氏も同席した」
 4日、全国紙朝刊各紙に「都、全飲食店時まで」の見出しが躍った。その後、首相が念頭会見で1都3県を対象に緊急事態宣言を検討することを明らかにした。昨年春先の緊急事態宣言によって、経済は大きな打撃を受けた。今回は飲食店に限定するなど対象を絞ることで、マイナスを最小限に抑える見通しだ。
 今回の攻防をどうみるか。ベテラン記者は。
 「首相の負けだ。緊急事態宣言を出さなければ感染拡大を放置していると批判され、出せば経済にマイナスとたたかれる。本来は小池氏のコロナ対策失敗のはずが、『政府は後手』との印象をつける結果となった」
 念頭から政府は苦境にある。