風雲☆永田町

「政治という仕事は、情熱と判断力の両方を使いながら、堅い板に力をこめて、ゆっくりと穴を開けていく仕事だ」(マックス・ウェーバー)

「菅に菅なし」に懸念拡大 山田内閣広報官辞任劇でみえた人切り役の不在

 菅義偉首相の長男、正剛(せいごう)氏が務める映像会社「東北新社」から接待を受けていた山田真貴子内閣広報官が1日、体調不良による入院加療を理由に辞任した。東北新社から一晩で7万4千円超の接待を受けていた。

 首相は先週26日の段階で、女性の内閣広報官ということもあって続投させる意向を表明していたが、週明けに辞任に追い込まれた。首相官邸で何が起きていたのか。

 自民党内の空気は、続投論と辞任論が半々だった。続投論はこんな感じだ。

 「山田氏が辞任すれば、総務省幹部の首をこぞって切らないといけない。特に放送行政がガタガタになる。大蔵省のノーパンしゃぶしゃぶ事件の際もそこまでせず、武藤敏郎事務次官ら、残したことで後に活躍した人もいた」

 政府側の理論である。辞任論はこうだった。

 「26日には新型コロナウイルスの緊急事態宣言の一部地域解除について首相による記者会見がある予定だった。内閣広報官は司会をする。山田氏が司会をすれば、接待問題を首相と山田氏に交互に聞くことになる。そんなみっともない会見にはできない」

 しかして26日、首相は記者会見を見送り、首相官邸のエントランスで立ったまま記者団による囲み取材を受けることになった。ここで18分間、若い総理番に矢継ぎ早に質問され「政府として答えるべきではない」「同じような質問ばかり」と激高し、週末のテレビで繰り返し映像が流れた。

 自民党中堅議員は「誰かが質問を切らなければならなかった。官邸の危機管理の失敗だ」と嘆いた。内閣広報官としては首相にあんな姿をさらさせて続投させることはできない。山田氏は身を引くことになった。

 一方、そもそも菅首相が山田氏を続投させる意向だったかは懐疑的だ。記者会見を見送ることで山田氏に自発的辞任を促したのではないか。

 安倍政権時代は、安倍晋三前首相は一度も閣僚の首を斬ったことがない。官房長官だった菅首相や今井尚哉前首相秘書官が該当者に辞任を促したりNHKに速報を流させて辞任を自覚させたりしていた。菅政権にはこの役割を果たせる人がいない。役人気質といわれる加藤勝信官房長官には望むべくもない。

 安倍氏には菅首相と言う人斬り役がいた。汚れ役と言い換えてもよい。菅首相にはそうした人物がいない。

 「菅に菅なし」が、政権に重くのしかかっているのだ。