風雲☆永田町

「政治という仕事は、情熱と判断力の両方を使いながら、堅い板に力をこめて、ゆっくりと穴を開けていく仕事だ」(マックス・ウェーバー)

立憲民主党・枝野代表にさっそくブーメラン 代わらぬ顔ぶれに失望

 自民党総裁選の投開票日の14日、最大野党の立憲民主党の幹部人事が明らかになった。枝野幸男代表、福山哲郎幹事長、泉健太政調会長安住淳国対委員長。枝野、福山、安住の3氏は居ぬきである。野党議員の解説。
 「国民民主党との合流に尽力した福山氏、国会対策を知り尽くしている安住氏は枝野氏にも近く代える選択肢はなかった。国民民主党側から代表選に出た泉氏を登用して、挙党態勢を演出した」
 小沢一郎・元民主党幹事長や中村喜四郎元建設相らは次期選挙に向けて怪気炎をあげており、人事を動かして党内に不満が出るのを避けたい思いもあったようだ。
 新鮮味はなく、支持率は上がりそうにない。新首相となりそうな菅義偉官房長官のスローガンである「自助、共助、公助、そして絆」をめぐって、「新党」の代表である枝野氏がさっそく、旧民主党お家芸であるブーメランを投げていると話題になっている。
 スローガンについて菅氏は「まずは自分でやってみる。そして、地域や家族がお互いに助け合う。その上で、政府がセーフティネットで守る」と話した。枝野氏は9日、日本記者クラブ主催の討論会でこう言って対決姿勢を鮮明にした。
 「政治家が自助と言ってはいけない。責任放棄だ。自助や共助ではどうにもならない時が人生にはある。政治の役割は公助だ。私たちとは明確に政治姿勢が違う」
 ところが、枝野氏は2005年「年金制度をはじめとする社会保障制度に関する両院合同会議」でこう語っている。
 「生活保護という仕組みは、本来はないほうが望ましい制度だ。まさに自助、共助、公助であって、本来は、各個人が自分の責任と自分の努力で生きていければ一番いいが、人間社会というのは必ずしもそうはできない。そうした中でお互いの助け合いという共助の仕組みがある。そのやり方でどうしても救えないケースが出てくるからこそ、最後のベースとしての生活保護が存在している。できるならば、自助と共助の世界の中で、生活保護という仕組みを受ける人がいなくなる社会がわれわれの目指すべき社会なのではないか」
 できるなら「自助と共助で」と明確に述べている。枝野氏はリアリストであり、ポジショントークを得意としているとの指摘もある。いまさら驚くほどのブーメランではないか。

菅(すが)新政権の目玉デジタル庁  縦割り行政打破・長期政権の装置

 安倍晋三首相の後継を決める自民党総裁選で独走している菅義偉官房長官は、政府のデジタル化を進める司令塔として「デジタル庁」を創設する方針を発表した。新型コロナウイルスの感染で日本の行政のデジタル化が世界の最低レベルであることが浮き彫りになった。現職閣僚の話。
 「中小企業を支える持続化給付金では、初日に大量申請があり、支給まで1ヵ月ほどかかった。国民1人当たり10万円の特別定額給付金もオンラインで不具合があり、画面と紙の申請を見比べるというアナログな作業も発生した。PCR検査の陽性者に関する保健所の情報はファクスでやりとりされていた。これを一気に進める司令塔が必要だ」
 政府のデジタル化は総務省が中心となってやっている。総務畑で育った菅氏は周囲にこう語る。
 「司令塔機能を総務省から取り上げる。専門家の政治家を大臣にする」
 菅氏は最近、かねてからデジタル庁の創設を打ったて来た竹中平蔵総務相と面会し、デジタル庁についてレクチャーを受けた。狙いについて、官邸筋が解説した。
 「菅氏は『縦割り打破や規制改革では国民はピンとこない。だから、デジタル化というキーワードを付けて省庁を横串にせよ』とアドバイスを受けた。縦割り打破にこだわっている菅氏は飛びついた」
 菅氏のお気に入りのエピソードは、政府が今年6月から、発電や農業用などに限って使っていた既存の利水ダムも洪水対策に活用できるよう運用を見直したことだ。大雨の前に事前放流できるようにすることで、水害対策に使うことができるダムの貯水容量は八ツ場ダム50個分に相当するという。菅氏は総裁選でも「縦割りを打破して実現した結果だ」と訴えている。
 担当大臣としては、突破力を期待される河野太郎防衛相や平井卓也元IT担当相らが取りざたされている。いずれにしても、デジタル庁創設に伴いデジタル化が進めば、菅政権のレガシーとなる。ベテラン記者が解説した。
 「ワンポイントといわれた菅氏だが本格政権を狙っている。デジタル庁は1年ではできない。年内に衆院解散・総選挙を行って勝利し、来年の総裁選でも勝つシナリオを持っているのは間違いない」

尖閣の中国人船長釈放「菅直人の指示」 枝野推薦人は「悪夢の民主党」軍団

 産経新聞が8日付朝刊1面トップでド級のスクープを放った。民主党政権時代に外相を務めた前原誠司衆院議員が、2008年9月7日に尖閣諸島沖縄県石垣市)沖の領海内で発生した海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件で、当時の菅直人(かん・なおと。菅義偉氏に気の毒なので毎回読み仮名を記す)首相が、逮捕した中国人船長の釈放を求めたとインタビューで明らかにしたのだ。
 記事によると、菅(かん)氏は同年11月に横浜市アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議があり「胡錦濤国家主席が来なくなる」と主張し「俺がAPECの議長だ。言うとおりにしろ」と言い放ったという。
 当時官房副長官だった立憲民主党福山哲郎幹事長は8日の記者会見で「指揮権発動はしていない」とは言ったが、指示の有無については言及しなかった。暗に認めたようなものだ。
 船長釈放は、中国を付け上がらせる原因のひとつとなったことは否めない。民主党政権は「検察独自の判断」と強調してきたが、ウソだったことになる。立憲民主党安倍晋三政権が賭けマージャンの高検検事処分を「法務省が上げてきた」としていることを批判しているが、自分たちが検察に介入した経験があるから、政治介入があったと疑いを持つのではないか。ベテラン記者の話。
 「改めて『悪夢の民主党政権』が浮き彫りになったが、この状況下で、いま行われている立憲民主党国民新党の合流新党の代表選で、立憲民主党枝野幸男代表の推薦人名簿を見るとため息が出てくる」
 【衆院石川香織(北海道11)、江田憲司(神奈川8)、大河原雅子(比例北関東)、逢坂誠二(北海道8)、小川淳也(比例四国)、小沢一郎(岩手3)、亀井亜紀子(比例中国)、川内博史(鹿児島1)、菅直人(東京18)、近藤昭一(愛知3)、佐々木隆博(北海道6)、佐藤公治(広島6)、武内則男(比例四国)、辻元清美(大阪10)、西村智奈美(新潟1)、野田佳彦(千葉4)、堀越啓仁(比例北関東)、牧義夫(比例東海)、矢上雅義(比例九州)
 【参院江崎孝(比例)、小沢雅仁(比例)、長浜博行(千葉)、水岡俊一(比例)、森屋隆(比例)、蓮舫(東京)
 「まさしく民主党だ。しかも左傾化した民主党だ。民主党政権での肩書で呼ぶと小沢一郎幹事長、菅直人首相、野田佳彦首相、蓮舫行政刷新担当相、川内博史・ガソリン値下げ隊長とそうそうたる顔ぶれだ。リベラルグループ「サンクチュアリ」の江崎孝参院議員の名前もある。集団的自衛権に反対し、みんなの党で左派だった江田憲司衆院議員も加わっている。新鮮味がなく、支持率は上がらない」
 前原氏はなぜいま、暴露したのか。
 「野党の主導権争いの側面がある。前原氏は合流新党に参加せず、残る国民民主党の代表になる見通しだ。合流新党のイメージダウンを図り、次期衆院選で少しでも議席を獲得したいのだ」

安倍ー菅が仕掛ける「石破おしまいDEATH」

 自民党総裁選にからみ、森喜朗元首相が7日夜、東京都内のホテルで興味深い発言をした。
 「安倍晋三首相の本心は岸田文雄政調会長だ。しかし、周りがだんだん菅義偉官房長官支持で納得する空気になって、結局は皆が乗らざるを得なくなった」
 森氏はいまだ自民党最大派閥の細田派に影響力を持つキングメーカーの一人だ。狙いについて細田派所属が語った。
 「自民党総裁選で岸田氏に一部の議員票を回せ、という号令だ。いま、都道府県連の投票と議員票の両方で苦戦している岸田氏が石破茂元幹事長に負けて3位になりそうだから、首相の名前を借りて救おうとしているのだ」
 なぜそんなことをする必要があるのか。
 「菅氏が都道府県連と議員票で圧勝しそうだ。石破、岸田の2位争い。3位になったら政治生命を失いかねない。石破氏は地方で一定程度得票がありそうだが、岸田氏は厳しい。議員票で逆転させてやろうということだ」
 安倍首相は大の石破嫌いで知られる。今回菅氏支持に回ったのも、「石破以外なら誰でもよい」という思いがある。岸田氏の目を残し、石破氏をつぶせば、次にまた自分が影響力を持ってキングメーカーに君臨できるとの計算もありそうだ。
 TBSの人気ドラマ「半沢直樹」にちなんで「石破おしまいDEATH」と菅陣営は笑っているという。

内閣支持率急上昇、菅「新首相」人気 早く出たご祝儀と、なかった石破人気

 報道各社の世論調査で、安倍晋三内閣支持率が急上昇し、辞任する安倍首相の「次の首相」にふさわしい人物として菅義偉官房長官がトップに躍り出ている。
 菅氏は周囲に「実績が評価されている。批判されていたのは安倍首相個人だからね。俺が出るといったから上がった。『次の首相』でトップなのは、俺が仕事をしてきたからだ」と上機嫌で周囲に話しているというが、どうみるか。
 内閣支持率は、読売新聞(4~6日調査)52%(前回比15ポイント増)、TBS(5、6日調査)は62・4%(同27ポイント増)、朝日新聞(2、3日)は内閣支持率ではないが71%が安倍内閣を「評価する」と答えた。政権末期としては異例の高さである。内閣府の官僚の話。
 「新内閣のご祝儀が、発足前に出た。安倍政権7年8カ月の長期政権の飽きから開放され、ある種の閉塞感が打破されたような感覚で気持ちで支持率が上がった。安倍首相の引き際も鮮やかだととらえられた」
 「次の首相」では、読売が菅氏46%、石破氏33%、岸田氏9%。TBSが菅氏48%、石破氏27%、岸田氏6%。朝日が菅氏38%、石破氏25%、岸田氏5%。いずれも菅氏が「国民的人気がある」とされる石破氏を上回った。先の官僚が言う。
 「読売では、自民党支持層が菅氏63%、石破氏22%、岸田氏8%だった。自民党総裁選では各都道府県連が予備選を行うが、ここでも菅氏が勝利する公算が大きくなった。党員投票に活路を見出したかった石破氏だが、苦しくなった」
 思い出されるのは2007年の総裁選だ。福田康夫元首相と麻生太郎元首相が争い、都道府県連の投票で76票を獲得した福田氏が「国民的人気がある」とされていた麻生氏が獲得した65票を上回った。このときも一部県連で予備選が行われた。国会議員が福田氏支持で雪崩を打っており、似たような状況になる可能性がある。石破氏への支持は無党派や野党支持層で高いだけに、石破氏は野党との親和性が高いことがうかがえる。
 政党支持率各政党の支持率ではTBSで自民党の支持率が43・2%となり、第2次安倍政権発足後、最高となった。鈴木俊一総務会長が「衆院解散・総選挙の誘惑にかられる」と正直に語るように、永田町では早期解散論が広がっている。菅氏は報道各社のインタビューで解散について「新内閣が考える」「新型コロナウイルスの感染収束」「新たな経済対策」と話している。その解は、経済対策とりまとめ後の秋解散だろう。

注目の官房長官人事。梶山、森山、萩生田、加藤、河野氏ら浮上

 安倍晋三首相の後継を選ぶ自民党総裁選は菅義偉官房長官が独走しており、16日に新首相に選ばれる見通しだ。注目は女房役となる官房長官の人事だ。内閣の浮沈を握る最重要ポストで、菅氏の政権運営に向けた姿勢もみえてくる。安倍政権7年8カ月は菅氏が一貫して務めたポストだが「菅氏にとっての菅氏が不在」といわれる。ベテラン記者の解説。
 「名前が挙がっているのは、菅氏に近い議員として無派閥の梶山弘志経済産業相森山裕国対委員長。安倍首相に近い議員で有資格者とされる萩生田光一文部科学相加藤勝信厚生労働相だ。菅氏が買っており、麻生太郎副総理兼財務相の派閥に所属する河野太郎防衛相も浮上している」
 梶山氏は、菅氏が政治の師と仰ぐ梶山清六元官房長官を父に持ち、国会答弁は手堅いと評判だ。無派閥議員としては菅原一秀経産相とともに菅氏を囲む会合を続けている最側近とされる。両氏を菅氏にとっての「助さん角さん」と表現する議員もいる。
 森山氏は菅氏と同様に地方議員出身のたたきあげだ。二階俊博幹事長とともに国会運営などで菅氏と緊密に連携し、今回の総裁選でも、二階氏とともに、各派閥が菅氏に雪崩を打つ流れを主導した。「森山」「菅」「二階」の3人の頭文字をとって「MSN」と週刊誌に書かれたほどの蜜月ぶりだ。ただ、森山氏を起用すれば、各派閥の反発を買うのは間違いないだけに、判断が難しい。
 萩生田、加藤両氏は、どちらも菅氏のもとで官房副長官を務めた。安倍首相の側近で、「安倍政権の継承」という点では有資格者といえる。政府筋が背景を解説した。
 「萩生田氏は、首相の後見人でもある森喜朗元首相が菅氏に起用するよう伝えている。背後には、森氏や安倍首相、萩生田氏に近いジャーナリストが森氏に耳打ちしているといわれている。加藤氏は安倍首相とは親の代からの付き合いだ。安倍政権のチャーターメンバーとして菅氏ともウマがあうようだ。菅氏は新型コロナウイルス対応で厚労省の対応に不満があるが、てこ入れのために加藤氏を外すと角が立つので官房長官に昇格させる形をとる可能性がある」
 河野氏は。
 「菅氏が純粋に評価しており、人気がある。河野洋平官房長官が父だけに、世論はおもしろがる。河野太郎氏を起用したら、早期の衆院解散・総選挙とみてよい。ただ『官房機密費を公開する』などとエキセントリックなことをいいかねないのがネックだ」
 官房副長官には西村明宏氏の続投、小泉進次郎氏のサプライズ起用、無派閥菅Gの坂井学元総務副大臣の抜擢が考えられる。

早期解散論強まる  菅氏の権力志向と弱小野党

 永田町では、早期の衆院解散・総選挙説が広まっている。辞任表明した安倍晋三首相の後継が既定路線になっている菅義偉官房長官が、組閣後すぐにでも衆院を解散し「月13日告示、25日投開票」という具体的な日程も飛び交っている。ベテラン議員が話す。
 「新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行、経済危機などこの先支持率が上がる材料はない。菅氏の自民党総裁任期は来年9月までで、そこで退陣が濃厚だ。菅氏は打って出るしかない」
 菅氏はこれまでテレビ番組で今秋の衆院解散・総選挙の可能性について「なかなか難しい」と語った。コロナの収束が見通せず「国民の声は、とにかくコロナ対策に専念してくれと(いうものだ)」と理由を説明した。しかし昨2日、番記者に解散は難しいかを問われた菅氏は「知らない」とトーンを変えたという。
 解散は首相の求心力を高める伝家の宝刀だ。安倍首相のときは否定したが、自身の首相就任の目が出てきて、これを早々と封印するのは得策ではないとの思いが透けてみえる。一線記者は別の見方も語った。
 「農家出身の菅氏は横浜市議からのたたき上げだ。権力志向で、いつも上と戦ってきた。党内基盤は無派閥菅グループの30人ぐらいと弱い。総裁選では5派閥から支援を受けており、ある程度意向を聞かざるをえない。衆院選で勝利すれば政権に正当性が生まれ、『菅1強』が完成する」
 さらに続けた。
 「菅氏は麻生太郎首相が2008年の就任直後に衆院解散を打とうとしたのを止め、09年衆院選自民党は大惨敗して下野した後悔がある。他方、安倍首相による2度の解散にも慎重だったが、安倍首相は断交して圧勝した。この2つがトラウマとなっており、『勝てるタイミングで選挙をすべきだ』という判断になるだろう」
 今秋は勝てるタイミングといえるか。
 「野党が分裂状態だと自民党は強い、立憲民主党と国民民主党が合流するが、国民民主党の約10人は参加せず新党を作る。連合の組織議員もいて、連合が割れる。日本維新の会やれいわ新選組議席を増やしそうだ。新内閣発足のご祝儀相場で高支持率が期待できる。公明党も『来年の東京都議選から離れている年内ならOKだ』と内々に菅氏や二階俊博自民党幹事長に伝えているし、難色を示しても創価学会に太いパイプを持っている両氏が説得できる」
 解散を先送りする材料はコロナの感染拡大と、大型化している台風の到来ぐらいだろうか。